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『呼吸』eレポート  1巻 1号 (2017)
解説 臨床

膠原病に合併する間質性肺炎治療のNew Era

佐々木 信人1)
和田 百合子1)
山内 広平1,2)
(1)岩手医科大学内科学講座呼吸器アレルギー膠原病分野
(2)医療法人社団 松誠会 滝沢中央病院
Nobuhito Sasaki
Yuriko Wada
Kohei Yamauchi
Division of Pulmonary Medicine, Allergy and Rheumatology, Department
of Internal Medicine, Iwate Medical University
Sho-seikai (medical corporation) Takizawa central hospital

要 旨 膠原病に合併する間質性肺炎は特発性間質性肺炎に比べ予後がよく、ステロイド治療を含めた免疫抑制療法が有効であると言われてきた。但し全身性硬化症(強皮症)に合併する間質性肺炎改善に有効な薬剤はなく新しい薬剤の開発が待たれている。強皮症性間質性肺炎に対しては免疫抑制剤がある程度成功しているが、病態の中で最も重要な線維化に対して有効な薬剤がない。現在抗線維化薬が強皮症性間質性肺炎に対して臨床研究が行われており結果が期待されている。
キーワード間質性肺炎、全身性硬化症合併、線維化、抗線維化薬
『呼吸』eレポート 1(1) 23-25 ,2017
http://www.respiration.jp/erep/mokuji.php?y=2017&v=1


はじめに

 膠原病に合併する間質性肺炎は特発性間質性肺炎に比べ予後がよく、ステロイド治療を含めた免疫抑制療法に有効であると言われてきた。しかし全身性硬化症(強皮症)に合併する間質性肺炎を進行させない薬剤はあるが改善させる薬剤は皆無である。21世紀に入り関節リウマチは様々な作用機序を持つ生物学的製剤により治療が大きく成功した。一方で強皮症に対する治療選択肢が少なく、特に重要な合併である間質性肺炎に対しては父親世代の薬剤(20世紀の薬剤)が未だに治療スタンダードであり治療が遅れた疾患の一つである。

1.強皮症に合併する間質性肺炎
  overview

 全身性強皮症に合併する間質性肺炎は50%の患者に認められ、強皮症関連死亡60%が肺関連合併症によるものと生命予後を左右する重大な合併症である1)。間質性肺炎症例全てが予後不良例になるわけでなく約10%程度が末期肺に進行すると報告されている。
進行時期も決まっておりonsetから4年以内に進行するとされており、同時期に治療反応性が期待される。関節リウマチと同様にWindow Of Opportunity(onset 5年以内)を逃さないことが重要である。
 治療介入が必要な予後不良例を見つけ出すために予後予測因子が多数報告されている。
 予後予測因子①肺病変の広がり②半年でFVC10%以上の低下③発症早期のCRP陽性2~4)などである。また、本邦からはKL-6の値1,000以上で末期肺になると報告さている5)。これらを参考にして治療方針を決める必要がある。
 強皮症に合併する間質性肺炎を難しくしているのは病態が複雑に絡んでいることである。強皮症は①自己免疫②線維化③血管障害の三つの異常による障害に起因する疾患である。間質性肺炎も同様に肺血管障害、線維化、炎症が絡んでいる病態である。強皮症剖検例の肺では炎症性細胞の浸潤、内膜筋細胞の増殖、内膜浮腫を認める (図1)。
 治療は抗炎症薬だけではなく血流改善、抗線維化薬の併用、病期により薬剤switchが必要があると考えられる。現在までのところ免疫異常に対する薬剤、血流改善薬には優れた薬剤があるが抗線維化薬について有効な薬剤はない。
 c-kit阻害作用imatinibが抗線維化薬と期待されたが、肺高血圧症に対する治療において継続率が極めて悪いこと、皮膚硬化に対する治療効果が明らかでないことから、現在のところ本邦の治療ガイドラインでも推奨されていない1)。有効な抗線維化薬の創薬または薬剤の応用が必要である。

  
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図1 強皮症の剖検肺

強皮症では、炎症性細胞の浸潤、内膜筋細胞の増殖、内膜浮腫をみることがある。 初期では、強皮症でも線維性狭窄を呈することはない。 (岩手医科大学 名誉教授 澤井高志教授のご厚意により提供)

2.間質性肺炎に対する現在可能な治療

 現在のところ、治療薬としてはScleroderma Lung Study I でFVCの改善、維持が証明されたシクロフォスファミド内服治療が標準治療である。本邦では発がん性、忍容性などからシクロフォスファミド間欠静注療法が標準治療となっている6)。現在進行中のScleroderma Lung Study II の中間報告においてシクロフォスファミド内服治療と非劣性であったミコフェノール酸モフェチル(Mycophenolate mofetil)が、シクロフォスファミドが忍容性の問題などで回避される場合の選択肢となる。本邦からCase シリーズ7)として有効性が報告されLOTUSS-study(PhaseII)で安全性が証明されたビルフェニドンも有力な候補となっている。

3.今後期待される薬剤

 全身性強皮症成人患者87例を対象にトシリズマブの有効性を第2相無作為化比較試験で検討(faSScinate試験)が行われた8)。投与方法は関節リウマチに対する標準投与量の2倍(トシリズマブ162mg 皮下注毎週)である。投与24週での修正Rodnan皮膚スコアの最小二乗平均変化はトシリズマブ群-3.92、プラセボ群-1.22で差がなかったが(P=0.0915)投与48週時点ではトシリズマブ群で予測努力肺活量に対する努力肺活量の割合が低下した患者が少なかった(P=0.0373。本試験では間質性肺炎の画像評価がないことから皮膚硬化改善による呼吸機能改善の可能性も否定できないが、肺線維症と関わる血清CCL18濃度がトシリズマブ投与群で低下していることから抗線維化効果も否定できない。本薬剤に対するFDAからの評価は高く強皮症に対するBreakthroughと評されていた。
 Nintedanibは本邦でも特発性間質性肺炎に対して有効な薬剤として保険収載されている薬剤である。NintedanibはPDGF-receptorの結合がimatinibに比べ3~4倍と優れており、皮膚硬化、間質性肺炎などに有効性が期待されている。現在のところ本邦も含めた強皮症に合併する間質性肺炎に対して国際共同治験phase III-trial(SENSCIS)が行われており結果が待たれる。
 治験段階であるが治療戦略を変更させる抗線維化薬が上奏されてきている。一部の予後が極めて悪い強皮症肺集団に対して抗線維化薬がバラダイムシフトを起こし根本的な治療ができる息子時代の薬剤がBreakthroughしNew Eraを開くこと期待したい。

  
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文献

1)全身性強皮症 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン 日皮会誌:126(10,1831-1896,2016

2) Steen VD, Conte C, Owens GR, et al: Severe restrictivelung disease in systemic sclerosis. Arthritis Rheum, 1994; 37: 1283―1289

3) Wells AU, Cullinan P, Hansell DM, et al: Fibrosing alveolitis associated with systemic sclerosis has a better prognosis than lone cryptogenic fibrosing alveolitis. Am J Respir Crit Care Med, 1994; 149: 1583―1590.

4) Liu X, Mayes MD, Pedroza C, et al: Does C-Reactive Protein Predict the Long-Term Progression of Interstitial Lung Disease and Survival in Patients With Early Systemic Sclerosis? Arthritis Care & Research, 2013;65:1375–1380

5) Kuwana M, Shirai Y, Takeuchi T. Elevated Serum Krebs von den Lungen-6 in Early Disease Predicts Subsequent Deterioration of Pulmonary Function in Patients with Systemic Sclerosis and Interstitial Lung Disease. J Rheumatol, 2016;43:1825-1831. .

6) Tashkin DP, Elashoff R, Clements PJ, et al: Cyclophosphamide versus placebo in scleroderma lung disease. N Engl J Med, 2006; 354: 2655―2666

7) Miura Y, Saito T, Fujita K, et al: Clinical experience with pirfenidone in five patients with scleroderma-related interstitial lung disease. Sarcoidosis Vasc Diffuse LungDis, 2014; 31: 235―238

8) Khanna D, Denton CP, Jahreis A, et al. Safety and efficacy of subcutaneous tocilizumab in adults with systemic sclerosis (faSScinate): a phase 2, randomised, controlled trial. Lancet, 2016; 25:2630-40.









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